国連の「国際プラスチック条約」とは?背景から協議内容まで詳しく解説
プラスチック汚染は世界各地で深刻な環境問題となっています。
この問題を解決するため、国連では国際プラスチック条約の策定が進められています。この条約は、プラスチックに関する新たな国際的な規制となりうるもので、世界中のプラスチック業界を変えるほどのインパクトをもつ可能性があります。
本記事では、条約の背景や具体的な協議内容、現状の最新の動向を詳しく解説します。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
国際プラスチック条約が注目される背景
世界的に深刻化するプラスチック汚染問題
プラスチック汚染問題は年々深刻さを増しており、特に使い捨てプラスチック製品の大量生産と短期間の使用が原因となり、廃棄物が山積し、環境に悪影響を及ぼしています。毎年、約4億トンのプラスチックが生産され、そのうちの約半分が使い捨て用であると言われています。これにより、埋め立て地の逼迫や自然環境への流出が問題化しているのです。
海洋プラスチックごみがもたらす環境への影響
海洋ごみによる環境破壊は、最も深刻なプラスチック問題の一例です。毎年、約1,100万トンのプラスチックごみが海に流れ込み、このままでは2050年には海の魚の重量よりもプラスチックの重量が上回るという予測もあります。
プラスチック片を誤って食べた海洋生物が死に至るなどの影響や、マイクロプラスチックの拡散による人体への影響も無視できません。また、漁業や観光業への悪影響や、経済的損失も懸念されています。
現在のプラスチックごみ規制の限界
既存の規制では、プラスチック汚染問題を根本的に解決するには不十分とされています。多くの国がプラスチック製品の使用制限や廃棄物管理を強化していますが、国際的な統一基準がないため、規制の効果が地域や国ごとにばらつきがあります。さらに、低・中所得国では廃棄物の適切な管理インフラが整備されておらず、プラスチックごみの輸出入問題も未解決のままです。このような状況下で、全世界が協力して包括的な対策を講じる必要性が高まっています。
(出展)WWFジャパン「プラスチック汚染問題の解決に向けた最新報告書を発表」
環境省 ecojin(エコジン)「プラスチックとどうつきあう?」
国連が推進する「国際プラスチック条約」とは
国際プラスチック条約は、プラスチック汚染問題に対する法的拘束力を持つ国際的な取り決めです。
2022年の国連環境総会で策定が決定され、プラスチックのライフサイクル全体を対象に、環境への影響を削減することを目指しています。
国際プラスチック条約の基本理念と目指す目標
条約の基本理念は、持続可能な発展を基盤に、プラスチックの生産から廃棄に至るまでの全工程を包括的に規制し、循環型経済を推進することです。主に以下の目標が設定されています。
- プラスチック汚染の根本的な削減:使い捨てプラスチック製品の段階的廃止やリサイクルの促進。
- 廃棄物管理の向上:途上国を含む各国でのインフラ整備や廃棄物輸出入の管理強化。
- 持続可能なデザインの推進:製品設計の段階からリサイクルを考慮した設計基準の導入。
2040年までにプラスチック汚染を根絶することが最終目標とされ、特に海洋プラスチック問題やマイクロプラスチックの拡散防止に焦点が当てられています。
国際プラスチック条約成立に向けた課題
一方で、条約の詳細な文言を巡る交渉では、多くの意見の違いが浮き彫りとなっています。特に次のような課題が指摘されています:
- 生産規制を巡る対立:プラスチック製品の生産削減に関する具体的な目標設定を巡り、プラスチック製品を輸出する新興国と規制を求める先進国の間で意見が対立しています。
- 資金調達の問題:汚染対策やインフラ整備のための資金をどのように確保するかについても意見が分かれています。途上国からは十分な財政支援が求められています。
- 公平性の確保:条約の履行における「公正な移行」をどのように実現するかが、主要な焦点となっています。
国際プラスチック条約をめぐるこれまでの議論と今後の流れ
国際プラスチック条約をめぐってはこれまで5回の政府間交渉委員会(INC)が行われ、条約の内容について詳細な議論が進められてきました。
- INC1 プンタ・デル・エステ(ウルグアイ):2022年11月28日~12月2日
INC1では、各国よりプラスチック汚染対策に向けた決意が表明され、主に健康、エコシステム、人権、汚染廃絶に焦点が当てられ、プラスチック汚染が国境を越えるグローバルな課題であるという共通認識が改めて確認されました。
- INC2 パリ(フランス) :2023年5月29日~6月2日
INC2では、プラスチック汚染の廃止/削減に向けた具体的なアプローチに関して各国の意見が出されました。
多くの国から声が上がったアプローチは、safe and circular economy(安全かつ循環型の経済)。結果、INC2での議論を踏まえ、INC3までに条約のゼロドラフトを作成することが決定されました。
- INC3 ナイロビ(ケニア) :2023年11月13日~19日
INC3では、INC2で作成されたゼロドラフトを基に、各国が条約案に具体的な意見を表明した。ここでは各国へのsocial economic impact(社会経済影響)を掲げて意見を表明する国が多く、 同時に各国の意見の隔たりも明らかになりました。
- INC4 オタワ(カナダ):2024年4 月21~30日
国際プラスチック条約の第4回交渉会合(INC4)では、第3回会合で提出されたドラフトをもとに、条文の重複箇所整理や統合作業が行われました。その結果、いくつかの条文案が精査され、本格的な交渉が進展しました。現在、改訂ドラフトが公開されており、主な条文には以下3つの規制オプションが提示されています。
- トップダウン型:詳細な基準を条約付属書で定め、各国にその履行を義務付ける方式。これにはEU諸国や対策能力が不足する途上国が支持を表明。
- ハイブリッド型:大枠の目標を条約で定め、その枠内で各国が具体的基準を策定する方式。日本や中国などが支持。
- ボトムアップ型:各国が自主的に具体策を決定する柔軟な方式。米国が支持し、具体的な基準設定を避ける傾向。
条約案の議論では、一次ポリマー生産制限など上流分野での意見対立が顕著です。非生産国は規制を推進する一方、生産国である中国やインド、中東諸国は制限回避を主張。また、条項削除を求める「オプション0」を支持する国も存在しました。社会経済的影響への配慮や用語選定に関する細部まで各国の意見が交わされており、意見調整が難航しています。
- INC5 釜山(韓国):2024年11月25日~12月1日
第5回の会議では条約案の合意のための最終議論が行われましたが、各国の隔たりは埋まらず、今回の交渉での合意は見送られることとなりました。
今後、改めて会合が開かれ、条約案をまとめるための協議が再開される見込みとなっています。
(出展)
公益財団法人 地球環境戦略研究機関「プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会(INC) -これまでの議論と今後の展望-」
国連大学「現在のプラスチック条約交渉に関する5つのポイント」
環境省「海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する条約」
国際プラスチック条約により期待される効果
国際プラスチック条約の協議では、プラスチックの生産・使用・廃棄の各段階での具体的な規制が議論されています。条約が採択されれば、リサイクル業界にとって大きな転換点となることが予測され、以下のような影響が考えられます。
- リサイクル需要の拡大:規制強化に伴い、廃プラスチックの回収率の向上が求められる可能性があります。また、高品質なリサイクル技術への需要が増加します。
- 技術革新の加速:効率的なプラスチック分別やリサイクル技術の開発が進むと考えられます。これにより、従来はリサイクル困難とされてきた製品のリサイクルが進むことが期待されます。
- 業界内の競争激化:規制に適応できる企業が成長する一方で、対応が遅れる企業への影響が及ぶことも考えられます。特に中小企業においては、国際的な規制動向を注視し、適応するための体制を整えることが重要です。
国際プラスチック条約が締結されれば、企業や自治体は持続可能な社会構築に向けた重要な役割を担うことになります。そのため、早期に準備を進めていくことが今後必要となります。
国際プラスチック条約への知識を深めよう
国際プラスチック条約は、世界のプラスチック業界の動向を変える変換点ともいえる大きな議論となっています。
条約の内容によっては、事業の運営自体に多大な影響を及ぼす可能性もあるため、関連事業者の皆様は今後の条約の動向に注目し、必要に応じた対策を行っていくことをお勧めいたします。
今後、当ブログにおいても最新の情報があり次第アップデートさせていただきます。
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