日本の海洋プラスチックごみ問題の状況と対策とは?漁業における最新の取組みも解説

海洋プラスチックごみ問題は、近年、地球規模で深刻化している環境課題のひとつです。
こうした課題に対して、水産庁をはじめとした行政機関や漁業関係者が、さまざまな対策を講じ始めています。中でも「流出防止」や「海洋ごみの回収」、さらに「リサイクル・再資源化」といった取組みは、持続可能な水産業を実現するうえで欠かせないアクションです。
本記事では、日本の海洋プラスチックごみ問題の現状と、漁業分野で進められている最新の対策、課題解決に向けた先進的なソリューションについても解説します。
日本の海洋プラスチックごみ問題と漁業の関係性

漁具が約3割を占める国内の漂着ごみ
日本全国の海岸では、年間約2万トンもの漂着ごみが確認されています。環境省の調査によれば、その約7割がプラスチックごみであり、特に目立つのが漁業活動に起因する漁具やロープなどのプラスチック製品です。
環境省の調査によると、日本の海岸に漂着している海洋プラスチックごみのうち、漁網・ロープといった漁業ごみが約30パーセント(容積)、ブイやその他の漁具を含めると50パーセントを超えるものと推定されており、漁業活動が海洋ごみに一定の影響を与えている現状が浮き彫りになっています。
プラスチック製漁具は年間約2千トンが海に流出?
日本では年間約1,000万トンのプラスチック製品が生産されており、そのうちの約2万トンが漁業用プラスチック製品(漁網・ロープなど)として使われています。
このうち、適切に管理されずに流出する量は年間約2,000トンと推定されており、海洋プラスチックごみ問題の一因となっています。特に破損した漁具がそのまま海中に放置されたり、強風や高波によって海上から流出するケースが報告されています。
また、こうしたごみは「ゴーストギア(Ghost Gear)」とも呼ばれ、海中で魚介類を捕らえ続けることで水産資源への悪影響や、生態系の破壊にもつながることが懸念されています。
<出典:水産庁「漁業由来の海洋プラスチックごみの現状と対策について」>
日本の海洋プラスチックごみ問題に対する漁業分野の取組み

こうした課題に対して、水産庁をはじめとした行政機関や漁業関係者は、「ごみの流出防止」や「ごみの回収」、さらに「リサイクル・再資源化」などのさまざまな対策を講じ始めています。
海洋プラスチックごみの流出抑制対策
漁業活動に伴うプラスチックごみの多くは、漁具の破損や自然災害によって意図せずに海に流出するケースが大半です。そのため、流出自体を未然に防ぐための取り組みが進められています。
- 漁具の適正保管(不法投棄等の禁止)の徹底
- 漁具の適正な使用・管理・処理の指導
- 漁具のリサイクルの推進
- 漁具マーキング(所有者情報等の記載)
また、水産庁では流出抑制のためのガイドラインの整備や、漁業者向けの研修・啓発活動にも取り組んでおり、現場での意識改革と行動変容を促しています。
海洋プラスチックごみの回収対策
すでに海洋中や海岸に流出してしまったプラスチックごみについては、回収による対処が不可欠です。水産庁や環境省、各自治体では、漁業者や漁協が自主的に行っている回収活動を積極的に支援しています。
- 操業中に回収された海洋ごみを持ち帰る「持ち帰り漁業」
- 漁業関係者による海洋ごみの回収活動
- 海岸清掃活動への協力・参画
また、こうした回収活動を支援するために、水産庁や地方自治体ではごみの受け入れや処理体制も整備しています。漁業現場での「拾っても捨てられない」という課題を解消し、持続的なごみ回収活動の継続を後押ししています。
海洋プラスチックごみのリサイクル・再資源化
さらに、漁連・漁協が中心となり、漁業系廃棄物を回収しリサイクルする取り組みも増えています。
具体的には発泡スチロール製フロートなどの廃プラをリサイクル(サーマルリサイクル)して、地域のエネルギー源として有効利用する事例などもあります。
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【有効利用の事例】
- 漁連で漁業系プラスチックリサイクル施設を導入し、使用済みのフロート・カキパイプなどをペレット燃料化 →県内施設のボイラーの燃料として使用(予定)
- 漁業組合で廃プラスチック減容機を導入し、発泡スチロールを燃料用ペレットに加工 →県内企業施設で燃料として使用
このように、漁業系プラスチックごみの発生元である漁連・漁協みずからがリサイクルを行う取り組みは、近年大きな注目を集めています。
海洋プラスチックごみ課題解決のためのアイデア

『一般社団法人クリーンオーシャンプロジェクト』では、海洋ごみの回収から分別、リサイクルまで、海をきれいにするための様々なソリューションに取組んでいます。
ここでは、クリーンオーシャンプロジェクトにおける取り組みや最新の技術の一例をご紹介します。
ごみの回収に関するソリューション

海の監視・海洋プラの動きを知るソリューション
海洋プラスチックごみ問題において、「ごみがどこにどれだけ存在しているか」を把握することは、効率的な回収や対策の第一歩です。
クリーンオーシャンプロジェクトでは、IoT技術を活用した海洋観測システムや水上ドローンを使い、海洋ごみの「見える化」に挑戦しています。
観測システムにはカメラや各種センサーが搭載されており、潮流・風向・水温などのデータをリアルタイムで取得。これにより、ごみの漂流ルートを予測することが可能になります。また、水上ドローンを使って海面に浮かぶごみを自動回収する技術も導入されており、人手不足や高コストという回収現場の課題に対応しています。
海中のごみを調査・回収:水中ドローン
海中に沈んだごみは、目視や手作業での回収が難しく、従来は放置されがちでした。しかし、近年は水中ドローンを活用した調査・回収が注目を集めています。
水中ドローンに高精細カメラとセンサーを搭載し、港湾や漁港周辺の海底に沈んだごみを可視化。さらに、特殊なアーム付きドローンでごみを直接回収することも可能です。
ごみのリサイクル・再利用に関するソリューション

ごみのマテリアルリサイクル・アップサイクル
回収された海洋プラスチックごみは、ただ処理するだけでなく、新たな製品へとリサイクルすることも可能です。
回収した漁網やプラスチックごみを素材として再活用し、バッグやサンダル、アクセサリーなどのアップサイクル製品に加工することで、不要なごみが価値ある「モノ」へと生まれ変わります。このように、海洋ごみを新たな価値ある製品として社会に戻す取り組みは、リサイクルによる資源循環を進めると同時に、消費者の環境意識の向上にもつながります。
ごみの燃料化・エネルギー利用
もう一つの有効な手段が、プラスチックごみを燃料やエネルギー源として活用する「サーマルリサイクル」です。
クリーンオーシャンプロジェクトの代表理事企業である株式会社エルコムは、海洋プラスチックごみをペレット燃料へと加工し、産業用ボイラーなどのエネルギーとして再利用できる技術を提供しています。
この技術により、処理が困難な汚れたプラスチックや複合素材のごみも、エネルギーとして地域内で循環利用できる仕組みが実現しつつあります。特に、離島や漁村地域では、廃棄物処理とエネルギー確保を両立できる画期的な取り組みといえます。
海洋プラスチックごみ課題解決のための補助金制度
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漁業分野での海洋プラスチックごみ対策を持続化するには、行政による補助制度の活用が非常に重要です。ここでは、漁業者や自治体が利用できる主な助成・補助金制度を紹介します。
水産庁による補助制度
漁業における海洋プラスチック資源循環推進事業
- 漁業者、自治体、企業、地域住民等が連携した漁業系廃棄物を含む海洋プラスチックごみの資源循環の取組等に対して支援します。
- 2025年 上限金額・助成額 約8百万円
- ※2025年度の公募は2月で終了していますが、過去年度にも実施されているため、今後も継続的な実施が期待されています。
<出典>水産庁「農林水産分野における持続可能なプラスチック利用対策事業のうち漁業における海洋プラスチック資源循環推進事業」
環境省による補助金制度
自治体向け補助金
- 漁業者が海上でボランティア回収した海洋ごみについて、自治体が処理費用として年間最大1千万円まで補助しています。
<出典>環境省「漁業者と自治体の協力による 海洋ごみ回収マニュアルについて」
まとめ
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海洋プラスチックごみ問題は、日本の漁業や海洋環境に深刻な影響を及ぼしており、その対策はもはや待ったなしの状況です。とくに漁具由来のプラスチックごみは、流出の抑制や回収、再利用など多角的な対策が求められています。
近年では、ごみ回収やリサイクルの新しい取り組みも増えてきており、これらの最新技術を積極的に活用することで、コストを抑えながら持続可能な漁業と環境保全の両立が可能になります。
今こそ、漁業者や自治体、そして関連するすべての関係者が連携し、実効性ある海洋プラスチック対策に踏み出すべき時です。本記事が、海洋プラスチック問題に対する理解を深め、具体的な行動へとつなげる一助となれば幸いです。
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e-PEPシステムとは、使用済みプラスチックをその場で燃料化し、そのままエネルギーとして利用できる全く新しいエコリサイクルシステムです。
事業者が排出したプラスチックごみを発生元でリサイクルすることで、廃棄物処理にかかるコストやCO2排出を抑えながら、ごみを出さずに環境保護にも貢献します。
詳細・カタログは以下のページからご覧いただけます。また、お見積はエルコム公式サイトよりぜひお問合せください。